9月1日
釧路駅に到着する。今日、くしろ湿原ノロッコ号に乗る。初ノロッコ号である。列車に乗るのは何年ぶりだろう。胸が弾む。
ノロッコ号のパンフレットを手にしたのは春頃だったか。今だ、と思った。今、乗っておこうと思った。乗車の1か月前から予約できるというので、予約開始日すら待ち遠しかった。
天気予報のチェックもする。台風が近づいていたので気が気ではない。釧路は曇りマークが続いていたが、なぜか乗車日だけぽつんと晴れマークがついていた。運が味方をしてくれる。
駅構内にアナウンスが流れる。
「15時23分発、塘路行きノロッコ号改札中です」
3番ホームだ。あの停車している列車ではないか。まあ、まだ時間に余裕あるのだし、とは思わない。改札を通る。
階段通路を上ると、目の前を緑色の車両が現れる。ノロッコ号だ。早速、カバンからカメラを取り出す。バチバチ機関車の写真を撮る。次は席探しだ。切符片手に「あったー」心の声が浮き立つ。
15時23分。発車する。往復切符を再度、確認する。
「車窓より」
窓から覗き込む。列車の先頭が見える。このカーブはどれくらい続くのだろう。
ノロッコ号の停車駅は、釧路、東釧路、釧路湿原、細岡、塘路となっている。
2駅目の釧路湿原で、1/3くらい乗客が下車する。最終駅まで乗らないのか、観光列車のこんな利用法もあるのか、と発見。頭の片隅に入れておく。今回は列車に乗るのが目的だ。最終駅、塘路まで行く。
「夏模様」
ぼんやりしていたわけではない。ただ突然現れたシカの親子に反応してしまう。シャッターを切る。バンビ模様のエゾシカだ。冬になると毛が生え変わる。
塘路には1時間ほど停車する。次は釧路へと引き返す。16時07分。発車する。途中、網走行き普通列車とすれ違う。ある一言が後ろから聞こえる。
「誰も乗っていない」
なんとなく、将来の釧網線がどうなるか、頭を過る。
本が教えてくれたこと
『日高線の記憶』
著者、番匠克久。2021年、北海道新聞社から刊行。
子どもの頃、住んでいた土地。黄色い枯れ草が生い茂った見覚えある風景。色褪せた日高の景色が、この本に掲載されている写真によって鮮やかなものへと一変する。忘れかけていた無人駅や、河口に架かる鉄橋を脳裏によみがえす。
2021年、日高線の鵡川~様似間が廃線となる。
車の免許を取得してからは、全くJRを利用しなくなる。一度、日高線を走る列車に乗ってみたかった。海沿いを走る列車から見る風景はどんなだろう。
写真を眺め、ぱらっ、本をめっくっていく。ふと、自分へ問いかける。誰かの心を動かす写真は撮れているか、と。
最後に、印象深かったページがある。「さまに」とひらがなで書かれた駅名板について語っている、様似町Kumiさんのエッセイだ。漢字ではなくあえてひらがなを使うことで、慕わしい気持ち? 心地よさ? しっくりくる言葉が出てこないのだが、文章を書くうえで学んだ大事なページ。付箋を貼り付ける。