撮影マナー

9月29日 

 ナキウサギに会いに来る。今日も天気に恵まれる。
 AM8時。現地到着。駐車場に車が停められない。撮影者が多そうだ。道路脇に空いてるスペースがあったので、邪魔にならないよう車を停める。
 寒さ対策に薄手のダウンを着る。カメラリュックを背負い、山へ向かう。1年ぶりの登山になる。思ったより足が上がっている。まだ足腰は丈夫なようだ。
 撮影スポットが見えてくる。案の定、ナキウサギがよく見られる場所には先着がいる。駐車場の台数から、人が多いのではと思っていたが、予想通りである。カメラを首から下げ横一列、ずらっと並んでいる。
 ひとまず撮影場所を確保する。持参した折りたたみ椅子に腰を下す。レンズを交換する。カメラの設定をする。風景を試し撮りする。準備を整えても、なかなかナキウサギは出てこない。時間ばかり過ぎていく。
 不意に、向こう端で2、3人、カメラを構え始める。ナキウサギが現れた。皆、集まってくる。シャッターの連写音がカシャカシャ一斉に鳴り渡る。
 ナキウサギが岩の陰に隠れる。カメラを下し、各々、所定の場所へ戻っていく。
 今度は反対側で出たのか。何やら人が集まっている。見たい。行かなければ。ナキウサギが姿を見せるたび、あちら行き、こちら行き。けれども、それが楽しかったりする。足元が岩のため、歩くのも大変だ。あと何回、この場所に通えるだろう。

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 「秋の日」
光と霧が、枯れ葉を映えさせる。

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 「天高し」
空を見上げる。何に思い巡らせているのだろう。


本が教えてくれたこと

 偶然、書店で見つけた本。
『野生生物は優しさだけで守れるか』
朝日新聞取材チーム。岩波書店。2024年刊行。
 ジュニア新書なのだが、タイトルに惹かれて購入する。本を読み終え、写真愛好家として、動物好きとして、撮影マナーについて省みる。
 準絶滅危惧種にナキウサギは分類されている。動物を守るために、何かできることはないかという思いばかりあったのだが、何をしないかに焦点をずらしてみる。
 植物を踏まない。ゴミを捨てない。携帯トイレを持参する。携帯トイレ……思い当たる節がある。誤解を招くので、先に自分ではないとはっきり否定しておく。それは山道脇に人間の迷惑な置き土産を見たことがあるというものだ。人目に付く所でよほど切羽詰まっていたのだろう。しかし、犬の散歩でさえゴミ袋を持参している。私たちも携帯トイレを持参したい。
 お互いの存在を知らせるため、山の中をナキウサギの鳴き声が響き渡る。全身を使って鳴く姿にいつも胸が迫る。
 一方、あの鳴き声は敵の存在も知らせる。ナキウサギに私たちは、どう映っているのだろう。
 毎週のようにナキウサギを追いかけていた時期があった。あの日、すぐ目の前にナキウサギが現れた。人がカメラを構え群がった。カシャカシャと連写の音。ナキウサギは岩の隙間に隠れてしまった。キュルルと震える鳴き声。今思うと、後ろめたい気持ちになる。
 私たちは、写真を撮りたいがために、本人のことを考えているだろうか。行き過ぎた行動に出ていないだろうか。
 世間の休日は、撮影者が増す。今年もナキウサギに会えた。自然を荒らさぬよう、この辺で下山する。