7月21日
北見を訪ねる。暑い日だった。車のラジオから気象情報が流れる。
「今日の最高気温 北見34℃」
北海道の気温としては暑すぎる。天気のことなど、手も足も出ない。車内はエアコンで快適であるのに。
北見という土地。道東の北に位置しており、非常に寒い。しかし、この地帯、夏になると何度か暑い日がある。たまたまその日に当たってしまう。まあ、いい。暑さに歓迎されているのだろう。
せっかく連休がとれたので、札幌から遠く北見に足を運んでみる。北見のどこへ行こう。色々調べ、
北きつね牧場を選ぶ。
現地に到着。車から降りる。暑い。もわっとした暑苦しさに襲われる。汗が体のどこかで、ぷつぷつしている。
「落とし物」
暑さにキツネもバテている。それとも昼寝か。まるで誰かの落とし物に見えてしまう。
「頭隠して尻隠さず」
木箱の中にいる。あの中を覗いてみたい。
本が教えてくれたこと
しばしば通う書店がある。出入り口付近に、直木賞を受賞した河崎秋子の色紙が飾られている。北海道の本として、これまで発表した作品たちが、専用コーナーを作って並んでいる。
本を探し歩いていた。いつもならそこは素通りなのだが、ある人が河崎秋子の『ともぐい』を教えてくれたのを思い出す。目的の本は後回しに、『ともぐい』の前へ歩み寄る。本へ手を伸ばす。
ふと、横に置かれていた別の本に視線が奪われる。
『清浄島』
大きく書かれた本のタイトルに、キツネが描かれている。北きつね牧場行きを計画していたところに、こんな本と出会ってしまう。『清浄島』は2022年、双葉社より刊行。北海道立衛生研究所に所属する主人公の土橋が、当時、礼文島でのみ発症したエキノコックス症の原因を探っていく物語だ。
エキノコックスについて言葉は知っていた。キツネに触れてはいけないことも。頭の中にある情報はそれだけだ。すべてにおいて、あまりに知らなことが多すぎて、心が焦る。
エキノコックスは野ネズミから犬・キツネと寄生し、犬・キツネから野ネズミと寄生を繰り返しながら生きている寄生虫だ。
以前、雪の中に頭から突っ込んで、逆立ちになっているキツネの写真を見たことがある。こんな一瞬を撮れて羨望してしまう。雪の下にいる野ネズミを捕食している写真。キツネの生態を理解している。被写体との向き合い方を比べてしまい、自省する。
国内でのエキノコックス症の発症人数は、毎年数十人になるらしい。だが、キツネの体内にエキノコックスが宿っていても、それはそれで同調してしまう。
書店であの日、何の本を購入しようとしていたか覚えていない。『ともぐい』も、今度にしよう。